~透析室に勤務していた時のエピソード~
血液浄化センターの見学のため、これから治療を受けるお父さん娘さん親子が一緒に透析室に来られた。
この時からお二人との関わりが始まった。
娘さんによると、父の性格は病院では穏やかであるが、家では娘の言うことは聞かず怒りっぽい性格だと。当院の外来透析時はいつも娘さんの送迎であった。娘さんは父思いであり、時には娘さんの方から、お父さんのことで相談を受ける事があった。
透析を続けていく中で、父の物忘れが娘さんも気になり、いつもは穏やかな患者さんであったが、少しずつ透析室でも怒りっぽくなってきた。
あるとき、そのお父さんである患者さんが看護師に、
「今までお世話になりました、足りないかもしれませんが、皆さんで使って下さい」
と言って、ある袋を手渡した。看護師は、透析中ということもあって患者の気持ちを考え、気持ちの浮き沈みが治療に影響しない様にと一旦は受け取り、すぐに事情を私に伝えてくれた。
確認すると袋の中には、なんと驚くほどの大金が!娘さんに連絡して来院時に返金し、事情を説明した。
その時、娘さんは泣きながら
「父が自分に隠してしている行動が理解できない、自分の思っている事を話さないので、考えていることやする事が理解できない。物忘れがひどく、怒りっぽいし、どうして良いか解らない・・・」と。
娘さんに
「あなたが考えているように症状がひどくなったのではなく、お父さんにも考えがあっての行動で、お父さんなりの理由や意味があるんだと思います。周りに理解できないことでもお父さんなりの理由があるんです。一旦受け入れる事が必要ですよ・・・」
と、その時にお話しした。
後日、患者さんは転院することになり、後に娘さんが訪ねてこられた。
当院で透析患者となった時の出会いからの話を懐かしくされ、
「あの時の看護師さんの、父の行動には父なりの理由がある、という意味が今になって解るようになり、自分の気持ちも楽になりました。父に向き合うきっかけになりました。ありがとうございました」
と涙ながらに話された。
患者さんだけでなく、患者さんのご家族と向き合う事の大切さを再認識した瞬間でした。

